スポイチ編集長日誌

移転しました。現在はGTAオンラインの攻略が中心です

あなおそろしやケータイ小説

前回の「あたし彼女」についてなのだが、最初に一見した時は、まるでデキの悪い学生が卒論の字数を稼ぐのに使う手法だな。じゃあさらに開き直って、


文字も大きくしちゃえば大勝利じゃん


とか思ってた。

あ、やたらと改行しまくって水増しするのって、原稿用紙1枚についきいくらで原稿料が決まるケースでズルして原稿料を稼ぐぞー\(^o^)/という方法として有名な、

上官「これより点呼をとる!」

兵士A「1!」

兵士B「2!」

兵士C「3!」

兵士D「4!」

兵士E「5!」

兵士F「6!」

とかやるのに似てるよね。

実際にやったら殴られると思うけど。


まあ、「書籍化決定!」の際は、原稿用紙1枚につきいくらで原稿料が決まるわけではないはずなので、この改行しまくりんぐな文体そのままで本当に書籍に…ってのは大アリだと思う。


などと、もっぱらネタ方面から考えてたんだが、読んでみたら普通にいい話だった。泣かないけど。
いや、俺は普段からドライアイ気味なので、泣く気持ちは分かるのだが泣くことは出来ないのだ。ってターミネーターかい!?


だけど、この作品って、メディアの変化によって、それに合わせて文章作法も変化するというケースとして、結構象徴的なんではないだろうか。


特にインターネットの登場により、ディスプレイ上で文章を読む、という機会が激増してから、日本語を書く上でのルールが激変してきている。

かつて、「文章を書く」といえば、それが原稿用紙や紙の本だった時代には、文章を「文字数×行数」と、その総量としての「版型×ページ数」の中におとしこむ作業が必要であった。

一方、ウェブ上における文章は、原稿用紙や本を書く場合よりもずっと自由である、と思われていた。
だが、実際にはネット上においても、ウェブアクセシビリティという名で作法はしっかりと残っており、横にスクロールさせない(適宜改行する)ほうがよいとか、読みやすいように文章はセンテンスごとに一行空けるとか、原稿用紙に書くのとはまた違ったルールが適用される。

学者やオッサンのウェブサイトにありがちな例として、まったく改行もされていない文章がびっちりと果てしなく続くページというのがよくある。これらは日本語を書く作法としては正しいのだが、パソコン上では非常に読みにくいという結果をもたらす。

1行文字数とか1ページの行数制限とか全体のページ数による文章量の制限など、紙の出版物というメディアの特性による制限から、ウェブや電子媒体の登場によって、文章を書くルールは解き放たれたのかと思いきや、実はウェブならではの制約や禁忌事項というものはしっかりと存在し、さらに携帯端末向けとしても、携帯端末のディスプレイの特性に合った、携帯端末特有のフォーマットというものがあるんだなあ。

それが、ケータイ小説特有の文のかたちになっているんだと思う。


例えば行末の「、」「。」は携帯のディスプレイ上では見落としがちなので、

「みたいな」

で代用するんですけど

みたいな。


それに、文章を書くルールも時代や媒体によって変わって行く。

だって、

   はき書横の語本日の昔
したっだ通普がのく書らか右
          てっれこかて
   かろこどいくにみ読くごす
  どけすでんいくにき書ヂマ

みたいな。


で、この作品の文章は、読めば読むほど携帯での表示用に、うまく考えて落とし込んで最適化しているな、と思う。

つまり、携帯でポチポチ書き散らかしたんじゃなくて、筆者にはもともと文章を書く素養があり、それを携帯で見せるのに合理的な形に変形した、と思われる。

ちょっと試してみると分かるはず。

一見トンデモに見えるこの文章から、無駄な改行を削除して、適宜「てにをは」を補足して、「みたいな」をとるだけで、普通の日本語の文章になるから。

いや、普通どころか文章も筋が通っていてきちんとしている。
俺が「もしかして書いたのオッサンか?」と感じたのも、この文体、というか文の見せ方・カタチに似合わない「きちんとさ」からなんだよな。

この文章を「普通の」文芸誌とか雑誌向けの読み切り小説風の文体にリライトするのはそんなに手間ではないんじゃなかろうか。
はっきり言って、もっと破滅的でカオスな原稿を平気で書く団塊大学教授とかだっていっぱいいるしね。

ブログの文章をこの『あたし彼女』風にしてしまう「あたしブログ」なんてものもあるみたいだけど、この作品自体が普通の文章で書いてから、「あたしブログ」に突っ込んだのではないかと思えるぐらいだ。


確かに、今の時代は「ふつうの」小説では珍しくないし、特に文芸誌はなかなか売れないから短編は話題にもなりにくい。
だけど、一見奇をてらった文体であれば話題にはなる。

しかも、普通の文章で書いたのでは読み切り短編の分量で原稿料も枚数分だが、コレなら書籍化の際は一冊分の原稿料になる(はず)。

ケータイ小説に隠された深謀遠慮おそるべし、かな。